〈モドメント〉の服には、
デザイナーである鈴木大器氏が得意とする
ミリタリーやワーク、アウトドアといった
要素が散りばめられている。
その中で、このブランドらしさを
どのように表現したのか。
デザインに関するインタビューを通して、
鈴木氏の頭の中にある
アイデアの種を探しに行こう。
きちんとつくるのは、
なんだか自分ではない気がする。

〈モドメント〉はミリタリーやワーク、アウトドアなど、機能的な服のディテールが随所に見られます。鈴木さんはどうしてこうしたデザインを好まれるのでしょうか?
鈴木:意味のあるデザインが好きなんです。機能的な服の魅力はそこにある。誰がつくったのかは特定できないけど、必要に迫られて生まれたデザインやディテールってかっこいいと思うんですよね。
いわゆる機能美と呼ばれるものですよね。それをファッションの文脈に取り入れることの難しさは感じますか?
鈴木:難しいというより、それが楽しくてやっているんです。必要に迫られてつくったということを、丸っ切り無視してデザインするわけだから。普段歩いていて、そうした機能はオーバースペックなわけです。機能美をそのまま使うのではなくて、そうして生まれたユニークな形とか、変わった切り返しを別のものに変換するのが楽しい。だからおもしろくなるんです。

遊ぶというか、崩すような感覚ですか?
鈴木:きちんとつくるのは、なんだか自分ではない気がする。〈エンジニアド ガーメンツ〉でアメリカ製の服をつくるのも、そういう理由なんです。日本だときれいな服ができるけど、アメリカはいい意味でもっと粗いでしょう。自分はどちらかといえば、そうした不良なかっこよさが好きなんです。優等生よりも、そういうひねりの効いたやつのほうがおもしろい。そういう服をつくりたいんですよ。
どこか緩さがあって、ゆとりを感じるというか。
鈴木:あまりにもきちんとした服だと、着る側も緊張しちゃうじゃないですか。縮んでいたり、色が落ちていたり、ほつれていたりする方が親近感が湧くというか、自分にとっては愛おしいんです。
自分の解釈でファッションを
楽しめたほうがおもしろい。

〈モドメント〉の服は組み合わせることがひとつのコンセプトとしてありますが、デザインを考えるときは単体から考えるんですか?
鈴木:ひとつで完結するというか、〈モドメント〉同士で合わせなくても着られるものにしていますね。それを着ることによってコーディネートがおもしろくなる、「1+1=2」ではなくて、それ以上になる服をつくりたいと思いながらデザインしています。
エプロンやアームダウンなど、パーツ的なものもユニークですよね。
鈴木:どういったものをつくったらおもしろいか、常に考えてます。長年デザインをしていると、そうしたモノの視点になる。エプロンやアームダウンは過去に〈エンジニアド ガーメンツ〉でもデザインしましたが、もう一度つくりなおしてみようって思ったんです。
今回の服をデザインするにあたって、こだわったのはどんなことですか?
鈴木:バランスですね。デザイン中は気持ちが高ぶっていて、「いいじゃん」ってなるけど、翌日見ると「なんか違う」ってなってくるんですよ。だからやりすぎないようにしないといけないし、一方でやらなすぎるのも良くない。そのバランスを常に考えていますね。
その着地点は見極めが難しいですよね。
鈴木:そこに個性が出るし、そのときの気分も反映される。自分がやったらこうなるけど、他のひとが同じコンセプトでデザインしたとしたら、きっと全然違うものが生まれますよね。そのバランスはシーズンや時代によっても変化します。去年はここまでだけど、今年はここっていうのがあって、その見極めで勝負しているようなものなんです(笑)。

ちなみに、ファーストシーズンは鈴木さんの中で足し算したほうですか? それとも引いたほうですか?
鈴木:今回は足しましたね。次にやるとしたら、今度はもっと引いているかもしれない。“Module”っていう言葉には付け足す、あるいは外すっていう両方の意味があって。それがおもしろいなって思いますね。
色使いもカーキやネイビー、ブラックが軸としてあって、その中に赤いアイテムも差し込まれていますよね。色使いで意識したことはありますか?
鈴木:基本的にはベーシックカラーということで、ネイビー、黒、オリーブ、カーキをメインにしています。つまりアメリカ服の基本色ですね。そこに差し色を加えるとしたら、ハンティングのオレンジとか、赤になってくる。もうその相性の良さは実証されているので、自然に合いますよね。
ジャガードのアイテムも今回ラインナップしていますが、あの柄はどのようにして生まれたんですか?
鈴木:フェアアイル柄を拡大したんですよ。だけど、ぼくのドローイングの技術だとこれが限界で(笑)。本来はもっと細かいでしょう。すごく単純化したんだけど、それがそのまま生かされました。
そうだったんですね。〈ナンガ〉のロゴにある稜線をイメージしたのかと思っていました。
鈴木:解釈はひとそれぞれでいいと思う。そうやって発想を膨らませてくれるのは、すごくうれしいんです。いつも「勘違いがすべてをうまくさせる」って言っているんですけど、たとえば、美術館でもいろいろ説明してくれるじゃないですか。だけどそんなのは関係なくて、好きなように受け取ればいいし、そっちのほうが自分にとって価値が生まれる。服も芸術と一緒で、自由に考えて、自分の解釈でファッションを楽しめたほうがおもしろいと思うんです。だからあまり説明はしたくないんです。買ってくれたひとが好きに考えてくれたほうが、うれしいですね。
ちなみにこの模様のおもしろいところは、色によって生地の編み地が違うんですよ。ニットなんだけど、いろんな表情がある。そこが気に入っていますね。バウハウスの舞台衣装みたいな感じだなと、思っているんだけど(笑)。
ターゲットはなくて、
とにかく自由に着て欲しい。
先ほどアメリカ製のものづくりのおもしろさについて話されていましたが、〈モドメント〉は日本製です。その背景をどう〈モドメント〉に活かしましたか?
鈴木:〈ナンガ〉とは以前からコラボレーションしていて、背景の良さはもともと知っていました。うまいなぁって、いつも思っていて。ダウン自体もすごく良質だし、やっぱり命に関わるものでもあるから、そういう服をつくる技術が日本は長けているんですよね。そのクオリティを知った上で、いかにアメリカ製の不良っぽさ、不完全なおもしろさを表現できるか。それを今回やっているんです。デザインやディテールでそれを表現しているというか。それは実際に手に取って、なんかアメリカっぽいと感じ取ってもらえたらうれしいです。
お客さんの自由な発想で、想像の枠を超えるような捉え方や着方が生まれるといいですよね。
鈴木:気に入ってくれたら、それがなによりですね。デザインをしていると、「どんな層をターゲットにしているんですか?」ってよく聞かれます。だけど、そんなものは全然なくて。10代でも、60代でも、気に入ってくれたらそれがすべて。まだ若い頃は大人の格好に憧れていたけど、いまは若い子たちの着こなしを見ていいなって思うんです。だからターゲットとかはなくて、とにかく自由に着て欲しいですね。
鈴木大器(すずきだいき)
青森県出身。バンタンデザイン研究所でファッションを学び、1989年にネペンテスへ入社。渡米後、1999年に〈エンジニアド ガーメンツ〉をニューヨークで始動。アメリカンワークやミリタリーの要素を再構築する独自のスタイルで注目を集め、2008年にはCFDA/GQ「最優秀新人メンズウェアデザイナー」に選出されるなど国際的に高く評価されている。
