
“Module(構造)”、“Mode(様式)”、
“Equipment(装備)”、“Element(要素)”
という
4つの言葉を掛け合わせて生まれた
〈モドメント(MODMNT)〉。
デザインの独自性もさることながら、
自由な発想でスタイリングを組める
構築性もこのブランドの魅力のひとつ。
今回はデザイナーの鈴木大器氏と、
ファーストシーズンのヴィジュアルを手がけた
スタイリストの荒木大輔氏の対談をお届け。
どうすればユニークな着こなしができるのか。
ふたりのスタイリング論を語ってもらった。
どうにかして
人とは違う着方をしたい。

今回は〈モドメント〉のスタイリングについて、おふたりに語ってもらう企画です。
鈴木:〈モドメント〉の服はいろんな形で組み合わせることによって、おもしろいコーディネートができるようにデザインしています。もちろん単体でも着ることができるんだけど、やっぱりレイヤードしたり工夫して着たほうがぼくは楽しいと思うんです。
荒木:今回インナーダウンをデザインされてましたよね。あれを見て、10年くらい前の大器さんのスタイリングを思い出したんですよ。とあるアウトドアブランドのインナーダウンを着ていたんですが、いまとなってはすごくベーシックなアイテムだけど、当時はまだファッション文脈で着ている人が少なかった。シャツの上にインナーダウンを着て、その上からジャケットを羽織られていたんです。
鈴木:たしかに、よく着ていましたね。ああいう服をファッションに取り入れるのがおもしろいんです。ぼくはもともと、いまで言うセレクトショップの出身だから。ワンブランドで全身を固めるんじゃなくて、意外性のあるものを組み合わせて着るのが好きなんです。奇抜という意味ではなくね。それを常に考えてますね。

荒木さんは〈モドメント〉の服をご覧になられたときに、どんな印象を受けましたか?
荒木:ミリタリーやワークといった、大器さんらしいアイテムがラインナップされているなと。オーセンティックで派手さはないんだけど、よく見ると細かなギミックがすごい詰まっているんです。実際に着たり、袖を通すことでその魅力がわかるというか。すごくたくさんの可能性を秘めた服だなって感じましたね。組み合わせの楽しさというか、どうやってスタイリングをしようかワクワクする服だなと。
鈴木:それをずっと意識してデザインしていますからね。
荒木:大器さんのデザインって、いつもすごく作り込まれているんです。着てみると、「ここにこんな便利なギミックがあったんだ」って驚かされる。しかもそれが派手には見えなくて、きちんと落ち着きのある服にデザインされているところにも魅力に感じます。
鈴木:ありがとうございます。いろんな人がいろんな形でぼくのデザインを見てくれていると思うんですけど、ぼく自身はそれぞれ独自の解釈があっていいと思っていて。そういう意味ではどれも正解なんですよ。

今回の服でいうと、ジャケットの袖裏にスナップボタンがついていて、インナーダウンを取り付けられるようになっていました。そうした仕様がいろんな服に見られるということですよね。
鈴木:あれはスナップで留めるためのディテールではあるんだけど、あえて留めないで着るのもいんですよね。優等生にならず、まともには着ないっていう心がどこかにあるんです。どうにかして人とは違う着方をしたいというか。
荒木:だけど、あそこにスナップがあることが重要な気もします。
鈴木:そうそう。あることが大事なんです。だけど、それを使わないっていうのがぼくは好きで。「こうしなきゃいけない」っていうファッションのルールを忠実に守るのはイヤなんですよ(笑)。とはいえ、どう着るかは本当に着る人の自由だから、いろんな解釈があっていいと思うんです。街を歩いていても、いろんな人がいますよね。決してファッションとしてやっているわけではないのに、気になる服の着方をしている人がいると、参考にすることもありますし。だからヒントはそこらじゅうに転がっているんですよね。
荒木:それ、すごくわかります。ぼくも街中で気になる人を見つけると、それが狙ってやっているかどうかは関係なく、自分でも試したくなりますね。
鈴木:むかしからそういう風にファッションを捉えているから、こういう服ができるんだと思う。あんまりきちんとしすぎると、自分っぽくないなぁと感じるんです。
おもしろく着たい
という気持ちが活きる。

今回〈モドメント〉が掲げる“重ねる”“組み合わせる”という概念は、一般的に“レイヤードスタイル”と呼ばれるものと、ニュアンスが異なるような気がします。
鈴木:仰る通りですね。一般的なレイヤードというのは、シャツの上にベストを着て、ブレザーやコートを重ねる着方のこと。だけど〈モドメント〉の場合は、服を楽しんだり、着こなしをおもしろくする意味合いでの“重ねる”なんです。たとえば今回はインナーダウンを3種類つくったんですよ。
ベスト、ジャケット、ロングジャケットの3つがありますね。
鈴木:それは短いジャケットの中にロング丈を合わせたりして、普段とは違う着方を提案したかったからなんです。
荒木:ぼくもスタイリングを組んでいて、インナーダウンのバリエーションをいかに楽しむかということを考えました。それがあることによって組み合わせの可能性がグンと広がった。ジャケットとインナーダウンの丈感の違いがあることによって、着こなしのニュアンスが変わってくるんです。

今回、鈴木さんはニューヨークで、荒木さんは東京でそれぞれ〈モドメント〉のヴィジュアルを撮影されています。はじめに鈴木さんのヴィジュアルから、そのこだわりについて伺いたいです。
鈴木:自分がおもしろいと思うスタイリングをしましたね。ただ、撮影した頃はまだサンプルが全部揃っていなかったので、ピースは少なかったんだけど。それでもぼくなりに工夫はしましたね。
荒木:めちゃくちゃかっこいいですよね。雨のニューヨークってそれだけで雰囲気が出るから。
鈴木:たしかに。雨でよかったねって話もしてましたね。モデルもうちのスタッフなんです。古着好きで普段からこんな感じなんですよ。
荒木:そのナチュラルな感じが写真から伝わってきます。本当に彼のワードローブから服を引っ張ってきてスタイリングをしたように見えますね。このレイヤードの感じもすごくおもしろいなぁって思いました。

荒木さんはどんなことを意識されましたか?
荒木:丈感のおもしろさをちゃんと伝えたいなぁって思いましたね。
鈴木:上手いですよね。さすがプロだな。
荒木:大器さんの服ってスタイリングを組むのがすごく楽しいんです。今回もいろんな発見があって、ずっとこの作業できるなって思いながら組んでましたね。とくにコート丈のインナーダウンは、すごく新鮮でした。
微妙な丈感ですよね。
荒木:そうなんですよ。あの丈の長さによって、ありがちなスタイリングにも深みが生まれるというか。ヘビーアウターもあのアイテムを合わせることによって、また違った表情になったりして。それがおもしろかったですね。あとは小物類ですよね。グローブとアームダウン。ベストもデザインがめちゃくちゃかっこよくて。


アームダウンは本当に部品のようなアイテムですよね。
鈴木:アウトドアでああいうアイテムがあるんです。それを見たときに、これをファッションとして使ったらおもしろそうだなっておもったんです。本当にいろんなものを見ながら、「これは使えるな」って考えたりするから。映画を見ていてもストーリーとは別の部分を追いかけている気がしますね(笑)。
荒木:さっきも話していたように、ヒントがたくさんあるわけですよね。
鈴木:ミリタリーのライナーなんかも、あれはコートの中に取り付けるもののはずなのに、いつの間にかアウターとして着られるようになった。それがすごくかっこいいなって思うんです。本来の用途とは違う着方ですよね。そういう発想がぼくは好きなんですよ。それが定着すると、どんどんファッションのレベルが上がっていくと思うんですよね。
だから〈モドメント〉の服を着るときは、おもしろく着たいという気持ちが活きるんです。そう思いながらいろんな工夫をしているうちに、だんだんとスタイルが生まれてくる。それが楽しいじゃないですか。ぼくはそうやって育ってきたから。服にいろんなことを教わってきたので、いまは還元したいという気持ちでいるんです。こういう服をつくることで、いろんな着方に挑戦する人がたくさん出てきてくれたらいいなって。
荒木:着こなしのルールをどう逸脱するかみたいなことは、ぼくも常に考えてますね。コーディネートを考えていても、ここまではなんとなくOKっていうラインがぼんやりとあるじゃないですか。でも、その中にずっと留まっていると飽きてしまう。いかにしてそこからはみ出すかなんですよね。スタイリストとして、見ていておもしろいものを発信したいと思うので。
いろんな着方にトライすると
〈モドメント〉の魅力を発見できる。



〈モドメント〉の服を手に取ってくれたお客さんに着方のアドバイスをするとしたら、どんなことを伝えたいですか?
荒木:本当に自由に着こなせるし、どれを着てもかっこよくなるんですよ。なおかつワードローブの服とも合わせやすいデザインにもなっていて、どんな組み合わせでも成立しちゃうんですよね。最初は2アイテムくらい試してもらって、いろんな着方にトライすると〈モドメント〉の魅力を発見できると思います。
鈴木:ぼくはどのアイテムにも思い入れがあるから、全部欲しいくらいです(笑)。
荒木:個人的にはデニムのシリーズが好きですね。ジャケットもパンツも両方欲しいなって思いました。あとはやっぱりインナーダウンですよね。
鈴木:どれも〈モドメント〉のアイテムなんだけど、ワークやミリタリー、ハンティングなど、ルーツはバラバラなんですよ。それらを組み合わせても成立はするんだけど、手持ちの服にも合わせることも可能なんです。だから、いろいろ楽しんでもらえたらいいですね。

鈴木大器(すずき だいき)
青森県出身。バンタンデザイン研究所でファッションを学び、1989年にネペンテスへ入社。渡米後、1999年に〈エンジニアド ガーメンツ〉をニューヨークで始動。アメリカンワークやミリタリーの要素を再構築する独自のスタイルで注目を集め、2008年にはCFDA/GQ「最優秀新人メンズウェアデザイナー」に選出されるなど国際的に高く評価されている。

荒木大輔(あらき だいすけ)
1976年生まれ。群馬県出身。スタイリスト熊谷隆志氏に師事し、2001年に独立。雑誌などをはじめとしたファッションメディアやブランドのルックブック、俳優、アーティストなど、幅広いフィールドで活躍している。